7月7日(月)、生活文化学科の2年生必修科目「家族関係学」では、父系イデオロギーの中で、主婦として、神女として生きる沖縄の巫女「ノロ(祝女)」「カミンチュ(神女)」について、社会人類学?民俗学がご専門の渋谷研先生による特別講義がありました。
沖縄では村落祭祀を行うのはノロ(祝女)、カミンチュ(神女?神人)とよばれる女性たちだそうです。「ノロ(祝女)」「カミンチュ(神女?神人)」(総称して「女性神役」と記します)は、それぞれのシマ(村落)の最高聖地である男子禁制のウタキ(御嶽)に数日籠り、カミを自身に憑依させ、集落内を巡回、シマの人々にカミの恩恵を施すといいます。籠りで、身体は疲弊しますが逆に精神は研ぎ澄まされ、眼光鋭く、この時の女性神役の姿はあまりに神々しく人々は直視できないほどだったといいます。神?人一体の状態でカミンチュと呼ばれるゆえんだといえます。
さて、どういう人が女性神役になるのか、その条件は2つ。サーダカウマレ(霊感の強い資質をもったもの)であること、そしてそのシマの特定の親族集団(門中)に属する女性であることが必須条件だといいます。
女性神役を輩出することを許された特定の親族集団とは
沖縄には、門中とよばれる親族集団があるとのこと。門中は、父―子、父―子、父―子、の積み重ねで特定の祖先にたどり着き、上の世代にも下の世代にも男子を通じてのみつながります(女子は父親が属する門中の成員となりますが、自分の子は夫、つまり子の父親の門中の成員となります)。この連鎖の考え方は父系そのものですね。
本講義で話題にあがっている女性神役は村落内にあって特定の門中に属する女性が担っています。つまり、神役を輩出する門中に生まれた女性は、既に将来女性神役を担うことが期待されており、そうした状況の中でサーダカウマレと周囲から認められる女性が出現し育っていくことになります。
女性神役の苦悩
篤い信仰心で祭祀を司る女性神役の姿は確かに神々しいものではありますが、それは外部の者の印象であって実態はとても複雑です。女性神役(ほとんどが老齢の女性)の中で最初からすんなり神役になるひとはいないそうです。幼少の頃からカミダーリ(神憑り)とよばれる心身異常の体験があります。この体験がサーダカウマレであることの証とされるそうです。この心身異常はカミからの神役就任の命令と解されることが多く、神役就任を躊躇すると日常生活もままならない益々苛烈なカミダーリに悩まされることになるといいます。
幾多の紆余曲折を経て神役になるそうですが、就任してからはカミダーリは収束するものの、神役として行わなければならない祭祀の数は膨大で毎月、否毎週毎に何らかの祭祀に携わるといいます。
その一方結婚すれば婚家に主婦としての役割がありますが、神役としての役目は生家に由来します。家庭生活との両立にはかなりの労力を要することになります。
ところで、女性神役に見られる父系継承の定めともいうべき事象というか考え方は実は沖縄の生活全般を覆っているといっても過言ではないそうです。
強固な父系傾斜と多様な生き方の模索
例えば沖縄の一般家庭においても、家は長男が継ぐ、次男以下はヤーワカレ(分家?分出)、女子は婚出するのが理想とされ、位牌祭祀も一世代一夫婦を貫こうとします。その根底には父系原理の貫徹があり、その結果女子は生家への権利の行使ができない、親(両親)の位牌を継承することができない、など慣習法との狭間で苦悩する女性たちの現実が見えてくるといいます。
神役を輩出する門中に生まれながら、神役就任を拒む女性も無論います。誰が何と言おうと親の位牌を祀る、と主張する女性もいます。間違った祀り方をすると不幸になるとのユタ(沖縄にいる霊能者。多くが女性で祖先祭祀における影響力はかなり大きい)からの圧力に負けない事例です。
昨今のジェンダー批判の言説を理解しつつもその門中に生まれたことの「宿命」を受け入れ、村落祭祀を継承していく神役の女性たち。嫁ぎ先で長男を産み、立派な跡取りを育てることが女性の務めであると語る女性もありで実は一筋縄ではいかないようです。
さて、今日紹介された沖縄の事例は私たちから見ると遠いところの話でしょうか。
兄弟が(姉妹より)優先されている(ように感じる場面)、独身の男性親族と女性親族では見方(見られ方)が違ったり、内孫、外孫という区別、姓が変わることに抵抗感がない、墓をどうするか、といった私たちの身近な生活における父系偏に関する疑問を呼び起こすものでもあります。
難しい内容でありながら、私たちの身近な生活の中の様々な出来事と繋がり、家族、家庭生活を再度考えるきっかけをいただいた授業でした。
授業を終えての学生の感想をいくつか紹介します。
沖縄では、自然崇拝や祖先崇拝の信仰が根強く、カミンチュはその文化の中でとても大切にされていることがわかった。現代でも一部の地域では、行事や祭りでカミンチュの祈りが行われており、継承していることがわかった。(T)
天皇やカミンチュやノロみたいに、その役目を全うしなければならない方々は、厳格な規律と強い精神力、使命感があり、私たちの普段の生活からは想像のできない重圧の中、彼らはその立場と文化を背負い役割を担い続けているのがすごいと思いました。(I)
日本の神様のお話しを聞くことはとても好きだったので日本の不思議な文化…?を知ることが出来ました。霊感がある人が身近にいるので見える人はどんな景色が見えているのかなと思いました。なまはげの他にもまれびとが沢山いることにも驚きでした。とても貴重なお話をありがとうございました!とても楽しく聞くことが出来ました。(N)
日本本土の巫女と大きく違い、誰でもなれるという訳ではなく選ばれた人がなれる役職なのだと分かった。また、琉球では神女制度は大きく組織化されていたことがわかった。名前の通り、神事を執り行うことにより国をささえるというとても神聖な役職だと思った。(H)
渋谷先生、楽しい講義をありがとうございました。